【東大阪】「年中あります」の看板に、先代の背中を見た。【淡路屋】

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布施の飲み屋街をふらり歩いていると、不思議と足が止まる場所がある。派手な看板もなければ、SNS映えもしない。
でも、暖簾の奥からは笑い声とおでんの湯気が漏れてきて、なんだか懐かしい気持ちになる。
「淡路屋」は、メディア取材NGの大衆居酒屋。初めて入ったのに、なぜかホッとする空気がある。味の染みたどて焼きに、鯨のおばけ、そして年中あるキリンビール。昭和の香りと今の温度が、絶妙に混ざりあっている。そんな場所が、布施にちゃんとある。

たぶん今日も、変わらず暖簾は揺れている。

布施駅の北側。ネオンと看板がせめぎ合うように並ぶ飲み屋街の一角に、ひときわ静かな店がある。
名前は「淡路屋」。看板も控えめで、目をこらさなければ見逃してしまいそうな佇まい。だけど、いつも誰かが出入りしていて、暖簾の奥には常連たちの笑い声が絶えない。

カウンターの向こうでは、湯気が立ちのぼり、店内には味の記憶が染み込んでいる。
「派手なことは、なにひとつない。」それが、この店の魅力かもしれない。

どこを切り取っても、大衆居酒屋の教科書。

暖簾をくぐると、すぐに感じる。これは、“THE・大衆居酒屋”。

店の中心にはコの字型のカウンター、壁一面の手書きメニュー、そしてちょっと低めの天井。
染みのある壁や、くすんだ照明さえも、長年の営業を物語っていて、妙に落ち着く。

カウンターに座れば、「とりあえず生で!」と声をかけたくなるような、気さくな空気が流れている。

煮込みの音に、空腹が反応する。

席についたら、まず目に入るのがカウンター奥でぐつぐつと煮込まれている鍋。
看板メニューは「どて焼き(¥550*)」と「おでん(¥100〜*)」。どちらも開店当初から継ぎ足されてきた、まさに店の魂。(*2023年取材時)

どて焼きは、甘辛い味噌がしっかり絡んだ豚の小腸。コクがあって、あとを引く。
おでんは、定番の大根や玉子に加えて、見逃せないのが“しゅうまい”。
注文が入ってから鍋に入れ、ふわふわになる直前で引き上げる職人技。ひと口で、身体がほぐれる。

鯨が“ふつう”にある町の風景。

メニューの中に、ふと「おばけ」という文字が目に留まる。
それは、鯨の皮の刺身。大阪では、そんな呼び名で親しまれている。

大阪は、かつて鯨肉の流通拠点だった町。だから今も、鯨は庶民の味として息づいている。
淡路屋では「鯨ベーコン(¥600*)」と「おばけ(¥500*)」が定番。(*2023年取材時)

特別ではないけれど、ちょっと懐かしくて、ちょっと誇らしい。
この町の“ふつう”が、ちゃんと皿の上にある。

常連が教えてくれた、お造りのうまさ。

「ここに来たら、刺身も食わな損やで」
そう教えてくれたのは、カウンターの常連・高橋さん。
淡路屋では、その日仕入れた魚を「本日のおすすめ」としてホワイトボードに書き出している。

この日の赤身は、本マグロ。脂は控えめで、切り口が美しい。
居酒屋というより、割烹に近いような一皿。
だけど、ここでは“肴”として、気取らずに出てくる。そこが、またいい。

「年中あります」に込められた、父の背中。

ふと壁を見ると、目に飛び込んできたのが「キリンビール 年中あります」の文字。
どこか誇らしげに掲げられた看板に、現大将の顔がほころぶ。

「昔はな、生ビールなんてどこでも置けるもんやなかったんや」

先代が営業を続け、ようやくキリンビールを仕入れられるようになった日。
その喜びが、この“年中あります”という言葉に宿っている。

看板は、キリンビールから特別に作ってもらったもの。
父の背中を見て育った大将は、迷いなくこの店を継いだ。

雑談もまた、酒のつまみ。

カメラを向けると、ニカッと笑う大将。
店の雰囲気にぴったりな、愛され顔。

誰にでも気さくで、でも押し付けがましくはない。
客と店主というより、古くからの知り合いみたいな距離感。

会話の中身は他愛もないことばかり。でも、それがいい。
ビールの泡と一緒に、今日の疲れがふっと抜けていくような時間。

布施にある、ちょっとだけ秘密の場所。

SNSで探しても、きっと出てこない。
でも、町を歩けば、匂いでわかる。湯気でわかる。笑い声でわかる。

淡路屋は、誰かに教えたくなるような、でも内緒にしておきたいような。
そんな“ちょうどいい秘密”を抱えた店。

また来よう。
なんでもない一日に、あの暖簾をくぐりたくなる日が、きっと来るから。

ライター紹介

SEKAI HOTEL Deep Osaka Experience(SEKAI HOTEL 大阪布施)
東大阪・布施商店街の空きテナントを客室にリノベーションし、近隣の飲食店や銭湯での”日常”を旅の一部として楽しむ「まちごとホテル」。観光地では味わえない、まちの日常の魅力を発信しています。
公式HP:https://www.sekaihotel.jp/area/fuse
Instagram:https://www.instagram.com/sekaihotel

    

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