【東大阪】このまちに、ピザ屋がある理由。【That’s PIZZA 布施店】

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東大阪・布施商店街。賑やかな下町の空気の中、ひっそりと、それでも確かに「今」を更新し続けるピザ屋がある。名前は「That’s PIZZA」。

ナポリ仕込みの技と、布施っ子の温度感。そのあいだに立ち上がる、香ばしくて、ちょっと誇らしい日常のにおい。

これは単なる“ピザ屋”の話じゃない。食とまち、カルチャーと人が混じり合う、小さな交差点の物語。

黒い外壁の向こうに、湯気と笑い声とピザの香り

布施商店街の通りを歩いていると、にわかに空気が変わる一角がある。黒を基調にした外壁。中央には、ネオンのピザサイン。店前に止まるママチャリ。前カゴには子供用のシート。

ふと足を止めたくなる、そんな風景の真ん中にあるのが「That’s PIZZA 布施店」だ。

「ピザ」という言葉を、あえて飾らずに名乗るこの店には、かしこまりのない親しみと、地元へのまなざしが詰まっている。

入り口のドアを押せば、焼きたての香ばしい香りが鼻先をくすぐり、カウンター越しに薪窯の炎が揺れている。手際よく生地を伸ばす職人の手さばき。カウンターに置かれる皿。笑顔でピザを頬張る子ども。それぞれの“今”が、ゆるやかにつながっていく。

ピザは生地で決まる。100時間のうまみ仕込み

That’s PIZZAが大切にしているのは「生地が9割」という哲学。素材は、小麦、水、塩、酵母。驚くほどシンプル。でも、だからこそ奥深い。日々の気温や湿度を見極めながら、その日の“生地の機嫌”に寄り添うように仕込みは行われる。

4日間、100時間かけて発酵させる生地は、ふんわりと軽く、それでいて奥行きがある。高温の薪窯に入ると、一気に焼き上がり、外はカリッと香ばしく、中はもちっとやさしい食感に。

「裏面の焼き色を見れば、職人の腕がわかる」と言うが、ここでは一枚のピザに、目の前の人を喜ばせたいという気持ちが、しっかり焼き込まれている。

“ピッツァ”じゃなくて、“ピザ”でいい

オーナーの梶原洋平さんは、ナポリの有名店「イル・ピッツァイオーロ・デル・プレジデンテ」で修行を積んだ人物だ。でも、彼が目指すのは高級感のある「ピッツァ」じゃない。もっと暮らしの中に根ざした、いつもの「ピザ」だ。

それは、ナポリの街角で見た風景に原点がある。地元の人たちが、当たり前のようにピザ屋に集まり、笑い、語らう。「食べること」よりも、「そこにいること」に意味があるような、そんな場所。

That’s PIZZAの看板メニュー、マルゲリータは950円。ナポリと同じくらいの価格設定にしているのは、「本物の味を、日常のまま届けたいから」。

特別じゃない。だけど、なんだか毎回食べたくなる。取材中にも、「うちは毎回これ頼むねん」と笑う家族連れの声が耳に残った。

薪窯の炎と、まちの熱量と

この店のシンボルとも言える、真っ赤に燃える薪窯。ナポリから船便で運ばれてきた特注の一基。500度を超える高温の中で、ピザはほんの数分で焼き上がる。その火の音すら、どこかこの町の鼓動のようにも聞こえてくる。

2021年の改装で、2階には光が差し込む明るいテーブル席ができた。ここでは子ども向けのピザ教室や、落語イベントも開かれる。いつの間にか、ピザ屋は「ただ食べる場所」から、「集まる場所」へと姿を変えていた。

梶原さんが言う。「いいまちには、“かっこいいピザ屋”がある。」

ここで言う“かっこいい”は、デザインや流行の話じゃない。人が集まって、関係が生まれて、何かが動き出すような。スケボーやファッション、音楽といったカルチャーと日常が交差する空気。その交差点に立つのが、ピザ屋なんだと。

変わらないまなざしと、少しずつ変わるまち

That’s PIZZAは、布施で生まれた。梶原さんもまた、布施で育った人だ。その店が、今や南堀江・梅田豊崎・玉造と、少しずつ輪を広げている。それでも、彼が立つのはいつも本店・布施店のカウンター。

2025年で、開業からちょうど10年。10年経っても、窯の前に立つ姿は変わらない。けれど、その周りでは、まちの表情が少しずつ変わっていく。子どもが増えた。カルチャーイベントが開かれるようになった。なんでもないような日常が、少しだけあざやかになった気がする。

ピザ屋から、まちに恋をする

「ピザを食べに来たはずなのに、なんだかこのまちが好きになる。」

That’s PIZZAには、そんな空気がある。気取らないのに、どこか凛としてる。カウンターでピザを待つあいだ、ふと耳にした誰かの笑い声が、なぜか心地よかったりする。


まちを変えるのは、大きな開発でも、新しい施設でもないのかもしれない。こうして、薪窯の前でピザを焼き続ける一人の背中。その背中に灯った炎が、ゆっくり、まちの景色をあたためていく。

ピザ屋をのぞきにいくことが、布施というまちと、出会いなおす一歩になるかもしれない。

ライター紹介

SEKAI HOTEL Deep Osaka Experience(SEKAI HOTEL 大阪布施)
東大阪・布施商店街の空きテナントを客室にリノベーションし、近隣の飲食店や銭湯での”日常”を旅の一部として楽しむ「まちごとホテル」。観光地では味わえない、まちの日常の魅力を発信しています。
公式HP:https://www.sekaihotel.jp/area/fuse
Instagram:https://www.instagram.com/sekaihotel

    

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