オレンジ色の看板に誘われて、ふらっと入った小さな店。
その扉の向こうには、子どもたちの秘密基地みたいな空間が広がっていた。
駄菓子屋「三ノ瀬ショップ」は、三ノ瀬公園のすぐそば。
色とりどりのお菓子に囲まれて、おっちゃんとのやりとりを楽しむ子どもたちの声が響いている。
ここでは、ただお菓子を買うだけじゃない。
数十円のお小遣いと、挨拶と、ほんの少しの勇気で、ちゃんと社会とつながっている気がする。
公園の前にある、小さな入り口
三ノ瀬公園の南筋。
あちこち色褪せた街並みに、ぽつんと残るオレンジ色の看板。
そこに白い文字で「駄菓子屋」と書いてある。
駄菓子屋なんて、最後に入ったのはいつだっただろう。
そう思いながら、ランドセルを背負った子どもたちのあとをついて、小さな扉をくぐる。
店の名前は「三ノ瀬ショップ」。
聞けば、店主のお母さんが始めたお店で、今はその息子さんが一人で切り盛りしているのだそう。
最初は閉めるつもりだった。けれど、子どもたちからの「辞めないで!」の声に背中を押されて、店を続けることに決めたのだとか。
どこか、家の居間のような、懐かしい空気が流れている。
子ども目線のディスプレイ
壁一面を埋め尽くすお菓子のパッケージたち。
うまい棒に、ベビースター、クッピーラムネ。名前を見ただけで、舌の奥が甘酸っぱくなる。
「その棚の奥、見てみ」と店主に言われ、しゃがんでみる。
すると、パッケージを模したラミネートや小さなキャラクターが、目線の高さにずらり。
大人の背からじゃ見えない場所に、子どもたちだけの小さな世界が広がっている。
この店は、まるごと子どもたちの目線でできているのだ。
棚も陳列もDIY。手作りだからこそ、愛情が伝わってくる。
「楽しんでほしいんですわ」と、少し照れくさそうに笑う店主の横顔が印象的だった。
お小遣いと会話のキャッチボール
この店に来る子たちは、誰もが小さな財布を手にしている。
100円、200円。親からもらったお小遣いで、何が買えるか一生懸命考える。
「おっちゃん、これ買ったらいくら残る?」
「あと40円やな」
「ほな、これと……あ、くじも引けるやん!」
そんなやりとりが、レジ前でひっきりなしに飛び交う。
値段の表示もわかりやすく、くじ引きの仕組みもシンプル。
店主は、ただお菓子を売るのではなく、「選ぶ」という体験を大切にしている。
選ぶこと、考えること。
それは、きっと大人になる準備のひとつだ。
くじ引きという名のドキドキ
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レジ横には、色とりどりの当たりくじが貼られている。
どれも誰かが当てた小さな誇り。
くじ引きは、ペットボトルのドリンクを買ったらおまけでついてくる。
当たれば50円、100円分の金券。
当たらなくても、くじを開ける一瞬のワクワク感は、何にも代えがたい。
「俺、100円当てたことあるねん」
そんな会話をしながら、くじを引く手が少しだけ震える。
当たった子は、まるでヒーローみたいな顔で店を出ていく。
見守るという仕事
店主は、朝の8時から夕方6時まで、年中無休で店に立つ。
見守っているだけじゃない。子どもたちに「挨拶」を教えるのも、大切な役割。
「入ってきたら、ちゃんと『こんにちは』って言わせますねん。最初は恥ずかしがってても、だんだん言えるようになるんです」
その言葉に、ただのお菓子屋ではないこの場所の“価値”が詰まっている気がした。
駄菓子は、ほんの数十円で買えるものかもしれない。
けれどこの店で子どもたちが手に入れているのは、金額にできないものばかりだ。
思い出を、もう一度手にとる
「こんなお店、まだ残ってたんやな」
そう言いながら、大人たちがふらりと入ってくることもあるらしい。
お菓子の棚を眺めながら、遠い記憶を探すように目を細めるその背中。
きっと、自分の中にある「駄菓子屋での時間」と重ね合わせているのだろう。
小さな頃に覚えた味、声、匂い。
それは記憶の奥で、今もまだ甘く響いている。
あとがき
駄菓子屋「三ノ瀬ショップ」は、ただ懐かしい場所じゃない。
地域の子どもたちにとっての“学校以外の学校”であり、大人たちにとっては心をふっとほどいてくれる場所でもある。
次に布施を訪れたときは、ぜひ三ノ瀬公園の前で、あの看板を探してみてほしい。
お小遣いと、ちょっとの勇気をポケットに。
きっと、あの日の自分に会えるから。
SEKAI HOTEL Deep Osaka Experience(SEKAI HOTEL 大阪布施)
東大阪・布施商店街の空きテナントを客室にリノベーションし、近隣の飲食店や銭湯での”日常”を旅の一部として楽しむ「まちごとホテル」。観光地では味わえない、まちの日常の魅力を発信しています。
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